国立ポクロフカ劇場
「検察官」・「三人姉妹」・「結婚」




ロシア演劇の最高峰「国立ポクロフカ劇場」の三公演を観てきました。
当たり前ですが cast さんはロシア語で話しますので通訳された音声を FM で聞く・・・というスタイルなのですが、通訳がちょっと(汗) なんか棒読みっぽいし全部訳しているわけではないので「・・・(無音)???」って箇所も多々あるし。 役者さんが熱演だっただけにその差が(涙)


■「検察官」(ニコライ・ゴーゴリ作、セルゲィ・アルツィパーシェフ演出)

19 世紀のロシア、とある地方都市、腐敗した行政の街の市長(演:セルゲィ・アルツィパーシェフ)の元に一通の手紙が届く、そこには「最近、都のペテルブルクから検察官がお忍びで各地方都市を巡回しており、この街にもそろそろやってくるのではないか?」と書いてあった。 腐敗した実情を報告されては一大事とばかりこの都市の名士達(市長、教育委員長、判事、慈善病院長、郵便局長、警察署長)は対策を検討し始める。 そんな折り、地元の商人が大慌てでやってきて「既にそれらしい人物が二週間も前から宿屋に逗留している」旨を伝える。 市長は善後策を講じるためにまずその人物に会おうと宿屋を訪れようとするが市長の妻子もエリート検察官に興味津々、付いてきそうな勢いだったがなだめて留め置いた。

一方宿屋に逗留中のフレスタコフ(演:エヴゲーニィ・ブルダコーフ)とその下男オーシプ(演:オレグ・パシシェンコ)はペテルブルクの官吏ではあったが宿屋に支払うお金もなく実家目指して都落ち中のボンボンであった。 宿屋に対して 1 ルーブルも支払っていないので食事も与えられず困り果てていたが、そんな時に突然の市長の来訪、フレスタコフは宿屋の主人から散々警察に訴えると脅されていたので捕まえに来たと勘違いするがどうも市長の反応がおかしく話がかみ合わない。 「お困りのことはありませんか?」との市長の問いに「宿賃が溜まっていて食事を出してもらえない」と言うと市長がお金を出してくれた、驚いたフレスタコフだがそのお金で宿屋の主人に宿代を払って精算する。 市長はフレスタコフを検察官だと思いこみ「我が家に泊まりませんか?」と打診してきた、無一文のフレスタコフはその申し出を快諾する。

市長の家に逗留するフレスタコフに対して、地元の名士が多数その下を訪れては腐敗状況を見逃してもらうべく工作を行う、自分の仕事の素晴らしさを喧伝する傍ら、その他の名士達の腐敗ぶりを話し袖の下を置いていくのであった。 最初は驚いたフレスタコフだが「借りるだけだから」と自分を納得させ、 100 ルーブル、200 ルーブルと袖の下の金額を釣り上げていく(そのお金は最終的にほとんど下男のオーシプに巻き上げられてしまう辺りが御坊ちゃま育ちか?)。 都での出世を願う市長一家は接待の末に一人娘(演:タチヤーナ・ヤコヴェンコ)を嫁がせようと画策する、

潮時と見た下男オーシプは馬車を仕立て、「すぐに戻りますよ」と市長一家に伝えてからフレスタコフの実家目指して出かけていく。 結婚の噂を聞きつけた周囲が集まり、市長一家はペテルブルクでの栄華を夢見て談笑する。 そこへ郵便局長(演:ワレーリィ・ニェナーチェフ)が息を切らせて飛び込んでくる。 彼は個人的な趣味から気になる手紙を無断で開封して中身を読んでいたのだが偶々フレスタコフが都在住の人宛に送った手紙を見つけてやはり無断開封して読んでいたのだ。 そこには名士達がフレスタコフに聞かせたこの街の腐敗ぶりが如実に書かれており、「どうも私を上級官吏と勘違いしているようだ」とも書かれていた。 ショックに打ちひしがれる人々、そこへ本物の検察官がやってきたとの知らせが届く。


■「三人姉妹」(アントン・チェーホフ作、セルゲィ・アルツィパーシェフ演出)

モスクワから旅団長だった父と共にこの地にやってきて 11 年、父は昨年他界し 3 人の娘と 1 人の息子の 4 人が乳母(演:ニーナ・キリヤコーワ)と共に暮らしていた。 長男アンドレイ(演:オレグ・パシチェンコ)は学才があり、娘達は彼がモスクワの大学で教鞭を執り、その恩恵で家族がモスクワへ戻れる日を祈っていた。

三女イリーナ(演:マリーヤ・コースチナ)の 20 歳の誕生日の日、モスクワから新しい旅団が到着する。 その旅団長は昔姉妹が「恋する少尉様」と呼んでいたヴェルシーニン陸軍中佐(演:セルゲィ・アルツィパーシェフ)であった、やってきた旅団の軍人らと共にイリーナの誕生パーティが始まる。 そこへナターシャ(演:タチヤーナ・ヤコヴェンコ)がやってくる、姉妹とは折り合いが悪かったがアンドレイは彼女を愛しており、プロポーズする。 そして二人は祝福に包まれる。

1 〜 2 年後の早春、ナターシャは第一子を出産しており、女主人然と振る舞い始める。 自分の才能を信じているアンドレイは市会議員になったが才能に見合った栄華を望めない現状に悲観しカード賭博で借金を抱え始める。 次女マーシャ(演:エレーナ・スタロドゥープ)は平凡な夫クルイギン(演:ゲンナージィ・ジュムーロフ)との生活に飽き、ヴェルシーニンとの間でやるせない恋に燃えていた。 イリーナは希望を胸に郵便局へ勤め始めたが理想と現実のギャップに打ちひしがれていた。 そしてこの数年でイリーナに対してトゥーゼンパフ男爵・陸軍中尉(演:ヴィクトル・ポリャコーフ)とソリョーヌイ陸軍二等大尉(演:ワレーリィ・ニェナーチェフ)は想いを寄せ始めていた。

更に数年後、ナターシャには第二子が授かっていた。 近くで火事がありたくさんの人が焼け出され消火活動に従事した男性陣は疲労困憊の様相を呈している。 そんな時、アンドレイが姉妹に無断で屋敷を抵当に入れて借金をしていた事を知り、ナターシャが乳母を「役立たず」と罵って追い出した事で三姉妹とアンドレイ夫婦との間の亀裂は決定的となる。

理想と現実のギャップに打ちひしがれるイリーナに長女オーリガ(演:ワレンチーナ・スヴェトローワ)は結婚することを勧める。 イリーナには男爵との結婚で幸せになれると説き、「愛は無くても男爵となら幸せになれる」と言う。 イリーナをめぐって鍔迫り合いをする二人だがソリョーヌイはその想いを強化させ、イリーナに言い寄る男は全て殺すと言い放つ。

暫くして旅団がこの街を離れる日がやってきた。 イリーナは男爵との挙式を明日に控えていた。 オーリガは校長に就任し乳母と共に官舎暮らしをしていたが屋敷に見送りに来ていた。 前日に町中で男爵とソリョーヌイが口論していた事を知ったイリーナは気が気ではない。 しかし男爵は落ち着いた雰囲気で椅子にもたれて時を過ごしていた。 そしてやおら起き出し出かける際にイリーナに「今朝はコーヒーを飲んでないんだ、戻ったらコーヒーを入れておくように」とだけ伝えて屋敷を出ていった。 暫くして決闘の立会人であった軍医(演:ゲンナージィ・チュルコーフ)が一人悲痛な面もちで戻ってきて告げた、「トゥーゼンパフ男爵は決闘で恋敵に殺された」と。


■「結婚」(ニコライ・ゴーゴリ作、セルゲィ・アルツィパーシェフ演出)

結婚の意思はあるものの独身の気ままさや挙式やその後の生活の事を考えるとその一歩を踏み出せないでいた七等文官グズーキン(演:イーゴリ・コストレフスキィ)のもとへ仲介を生業とするフョークラ(演:タチヤーナ・シュヴィトコーワ)が縁談を持ってきた。 「会うのは明日にしよう、いや明後日がいいかな?」と渋っていると親友のセワーヤキン(演:ミハイル・フィリポフ)がやってきてグズーキンの尻を叩き、グズーキンは縁談の相手の家に行くことになる。

商家の娘アガーフィヤ(演:エレーナ・スタロドゥーブ)のもとへ立ち戻ったフョークラは「 6 人もの男性に声をかけてきた」と報告し、「すぐに何人かはアガーフィヤに会いに来るよ」と話す。 そこへ次々と花婿候補がやってくる。 最初に現れたのは会計検査官のメダマーヤキン(演:ゲンナージィ・チュルコーフ)、彼は老けていて二番目にやってきた退役歩兵士官のアヌーチキン(演:ワレーリィ・ニェナーチェフ)に花嫁の父と間違われてしまう。 三番目の来訪者は退役海軍士官のカミーツキー(演:ラスミ・ジャブライーロフ)で彼も老けていて、シシリー島での 34 日間の想い出を自慢そうに話して聞かせる。(いや、絶対ホラ話だよな^^;) 最後にセワーヤキンに付き添われたグズーキンもやってきた。 着飾ったアガーフィヤが出てくるとみんなは他の花婿候補を牽制しつつも自己 PR に余念がない。 グズーキンは気後れしているのでセワーヤキンが必死になってグズーキンを褒め称える。 結論を求める花婿候補達に対し「恥ずかしいから」と言い残し部屋を出るアガーフィヤ、結論をすぐには出せないので夕方に再度集まって欲しいと言われ一同は解散する。

一人自問自答するアガーフィヤ、そこへ親類のセワーヤキンがやってきてグズーキンに決めるように誘導する。 断り方で悩むアガーフィヤには他の花婿候補たちを幻滅させるべく「”帰りやがれっ!”って言えば良いのです」と教える。 夕方には少し早い時刻にメダマーヤキン、カミーツキン、アヌーチキンがやってきて yes か no かの返答を迫る。 セワーヤキンにせかされたアガーフィヤは「帰りやがれっ!」と悪態をつき部屋を出て行ってしまう。 他の花婿候補達は「アガーフィヤは頭がおかしいのでは?」と思いセワーヤキンに尋ねると彼は「昔から頭が悪いんだ」と答えた。 「話が違うじゃないか?」とフョークラに詰め寄るが、結局彼らはアガーフィヤを諦めて帰路に就く。 遅れてやってきたグズーキンはアガーフィヤと 30 分ほど二人だけで談笑する、既にお膳立ては終わっているので「すぐに挙式だ!」と意気込んだセワーヤキンは戻って挙式の準備を始める。 しかしプロポーズ出来ずにグズーキンが戻ってくるとセワーヤキンは怒りだし「一時間後には挙式なんだ、急いでプロポーズしてこい!」と怒鳴られたグズーキンは三度アガーフィヤ宅へ向かい、強引に結婚を決められてしまう。

他の人は挙式の準備に取りかかり、アガーフィヤも前々から用意していたウェディング・ドレスに着替えるため部屋を出ていく。 一人取り残されたグズーキンは挙式後の事を考え浮かれ始める。 しかし段々と独身時代の気楽さを思い出しマリッジブルーになってしまう。 ここでも持ち前の優柔不断さが鎌首を持ち上げ、自問自答を始める。 扉の外には人が立っていて扉からは出られない、他に出られる場所なんて・・・・・

全ての準備が整い、ウェディング・ドレス姿のアガーフィヤを先頭に部屋へ入っていくと室内には誰もいない、驚いたセワーヤキンが室内を探すが何処にもグズーキンはいない。 扉の前に立っていた者に糺しても「出てない」との答え。 最後に小間使いに聞くと「グズーキンさんは意を決して窓から飛び降り、馬車を用意させてお帰りになられました」